CASE STUDY

HELLO, LOCAL LIFE!

IJU HOUSE PROJECT CASE 01  兵庫県三田町
IJU HOUSE PROJECT CASE 01  兵庫県三田町の家
畑のある暮らし
家族が集う様子

 兵庫県三田市に程近い大沢町。石田さんご夫婦は今日も午前の農作業を終えて、子供達が思い思いに走り回って遊ぶ様子をたまに相手をしながら見守っていた。彼らはずっと思い描いていた農業と共にある暮らしを求めて、2018 年に大阪府豊中市から移り住んで2 年が経つ。私たちに初めて相談があったのは2016 年。そこから約1 年の間を共に計画した結果、現地の既存の家屋を大事にし、リノベーションを選択。彼らの理想と想いをデザインに反映させ、今の生活がある。

 「大阪で過ごしながら、山や自然に囲まれて窓から建物が見えない景色と農業ができる暮らしをずっと考えていました。移住するタイミングのきっかけは長男が小学校に進学するまでに地方へ移り住むことを目標にしていたことが大きいです。」このように語るご主人は、当時、豊中にある職場へ毎日通いながらも山々に囲まれていて農作業もできるような移住先を探していた。いくつかの移住候補地のイベントに参加し、実際にその街の人たちの様子を観察していたと言う。大沢町を深く知るようになるもイベントがきっかけだった。自然に囲まれながらも、生活必要施設はすぐ近くにあり、大阪へのアクセスも良好、良い印象だった。そのイベントを通じて、大沢町の行政職員を紹介してもらい、ゆくゆくは土地を紹介してもらうようになる。

 「初めは移住先のこともわからなければ、家をどのように整えたら良いのか、わからないことが多くてハードルが高かった。イジューハウスにはその部分が相談できて、二人三脚で調査・計画検討してもらえたことが本当に良かったし、何より安心できた。私たち夫婦と地元工務店だけではこんな暮らし方はできていなかったように思う。」
 家を建てた経験もなければ、地方移住した経験もない人にとって、理想の暮らしを手に入れることは相当ハードルが高い。そもそもある土地に、どれくらいの建物が建つのか、検討もつかないことが多く専門性が高いことが理由にある。イジューハウスには、他市含めていくつかの土地検討を依頼し、大沢町の行政職員から紹介してもらった空き家付きの土地はついに理想に合致するものだった。
 しかし、この家が向こう何十年と住める家なのかわからなかった。石田さんは地元の工務店の意見だけでなく、家の状況を確認してもらい、意見をもらえたことも大きなメリットだったと言う。既存の骨組みを使えるところ、解体して新しくつくり替えるところを劣化状況から選別して、予算を抑えながら丁寧にリノベーションすることになった。
 「自分たちの暮らしに必要だと思っていたものは、畑と暮らしをつなぐ動線、寒さを乗り超えるための薪ストーブ、そして山々へ開けた開口部があって季節の変化を身近に感じられることだった。」
 このことから、開放的で広い畑への土間動線、家族が集まるスペースには薪ストーブを設置し、西側の山々へ開けた開口部、デッキやキャンプファイヤーへ続く開口部を計画し、既存建物の構造体の一部と基礎を残してそれ以外を全て遣り替えることとした。その工事の過程で、内壁の左官塗りはDIY やワークショップを実施し、ご夫婦の友人や地域の人たちとも協同した。西側の山々へ開かれた視界を確保するために、それを遮る木々も剪定した。
 「やっぱり開放的な土間は便利だし、外壁の杉板張りも暮らしの雰囲気に合っていて正解だった。住んでいくうちに杉板が変色していく様子が楽しい。」今では、薪ストーブの薪も地域の間伐材の一部を提供してもらって費用を抑えられているなど、彼らの息に合った生活環境や領域は自分たちの家や畑だけでなく、街やコミュニティまで広がっている。

 移住して2 年、ご主人は関東や大阪を行き来しながら、週末は農作業をする暮らしを、奥さんは自家農業による作物の出荷や土間空間で味噌や漬物をつくるゆっくりながら充実した生活を送っている。子供達は文字通り走り回り、デッキに寝そべったり、周辺の自然に探検に出かけている。そのように話すご夫婦は、輝かしく見えた。
 移住前に特に調べていた子供達の学校環境も、過疎化による影響が受けないことがわかり、子供一人当たりの教師・教育量は都心に比べれば、何十倍も違うことをメリットとして考えていたが、それ以上に実際は子供が少ない分、全学年で遊ぶことが普通であり、成長する環境としては抜群で子育てはだいぶ助かっていると言う。
 そして、実は大沢町は関西都市圏へのアクセスも良いことから働きに出ている住民が多く、コミュニティの仕来りが強くなくて、地域の人たちとの関係性も想像する田舎ではなかったこともプラスに働いているようだ。

 そんなご夫婦は、未来についても見据えているようだった。「定住するということは、賃貸のように悩んだり選ぶことを辞めて自分の所有する土地の中をどのようにカスタマイズしていくかということだと思う。」敷地が広い分、いろいろとやりようはある。
 今後は敷地内にもともとあって残しておいた古屋を、将来成長する子供達の離れ部屋として改修していくことも視野に入れていると言う。ご夫婦は開かれた環境の中で自身の理想的な住まい方を通じて、子供達の未来だけでなく、地元のコミュニティの未来も考えていくことを力強く受け入れている。