このコラムでは、私たちがイジューハウスを立ち上げた理由を連載していきます。
新型コロナの影響で今年の3月頃から地方移住やワーケーションという言葉を良く聞くようになりました。しかし、イジューハウスは地方移住を推進することを目的としたものではありません。
実は地方移住への関心は新型コロナが蔓延する以前から都心を中心に意識する人が年々増えていました。下のグラフは東京都のふるさと回帰支援センターへの来訪者・問合せの推移を示したものですが、面談・セミナー参加者だけでも、2014年には約1万人、2017年には2.5万人と。近年3年間で地方移住を検討している方が約2.5倍に増加しています。その意識は都心から離れて田舎へという単純なものではなく、「生活環境を大事にしたい」という意識の現れでもあると思います。これは高度経済成長を経て、経済性やネームバリューを優先することではなく、人生の豊かさの価値が徐々に見直されて現れているのだと捉えています。
出典:認定 NPO 法人 ふるさと回帰支援センター 2019 年度事業報告より
「イジューハウスのビジョンと住宅という器」
イジューハウスのビジョンは「あなた自身の求める自由な住まい方の実現を通じて、 あなたの生活・価値観を豊かにします。」を理念に、LDKや間取りからではなく住まい方を建主と一緒に丁寧に考えていくことにあります。これは、生活環境を大事にしたいという意識、求める住まい方を大事にしたいという意識に寄り添い、建築を通じて人生の豊かさの価値を見直す試みでもあります。
住宅は自然から守るシェルターである一方、人間の活動を支える器でもあります。経済的に豊かになった今でも、私たちは「土地や建物 (室数、間取り、広さ)自体」に価値を見出す意識があまりにも強くなってしまっているように思います。それは過去の政策により価値観形成されてきたものですが、私たちはそういった一般性よりも、生きる目的・住まい方を優先して、人生を豊かにされたい方々の新しい器を一緒に丁寧に計画していきたいと考えています。
「イジューハウスのきっかけを思い起こす」
イジューハウスの根本は、スタッフメンバーそれぞれに少なからず違うところがありますが、私の場合は新潟に移住して設計事務所で働いていた頃に芽生えたものです。
私が住んでいた場所は新潟市の旧市街地なのですが、車で10分走れば一面畑の風景が広がります。当然、関わるプロジェクトの立地は大阪市内や周辺市町村に比べて住宅の密度は低くなります。建物や密度が低い時にこそ庭や窓は本来の目的通りに大きく機能するものです。
その家が大きな窓を持っていても「誰にも見られない」、もしくは「見られても平気」な状況であること、「開かれている場所」と「籠もれる場所」があること、建て主の日常の自由を遮らない、サポートすることのある場合、生活環境は一変します。住まいを建てたい多くの建て主は賃貸のアパート・マンションから戸建住宅を購入して移ることになるので、なおのことなのです。
一方、大阪のように人口密度が高いこと=建物密度が高いことであり、得てして費用対効果を考えて敷地いっぱいまで計画を要望されることも多いです。そうなると、設計自体が窮屈に感じます。そして、実際にできる建物での行動や過ごし方も窮屈になるのです。
自分の住まい方に正直になること、周りとの比較から費用を重視し過ぎず、未来の自分達や子供達の思考や価値観に投資をすること。
そのことに向き合い、望む方々に向けて、私たちは建築家として住宅と生活が密着するように望まれる住まい方を丁寧に計画・提案していくことを提供することにしました。
地方で建築を建てるということは、その長い期間を地方の人達とも関係をつくれる可能性を意味します。地方移住という複雑で大きな決断に対し、住まいづくりだけでなく地方との関係性を育むことで、”モノ・ヒト・コトづくり”に邁進します!
イジューハウスの目的や意図はこれ以外にも多岐に渡りますが、次からは、その中で大きな意味を持つ「地方移住の側面」「住宅産業の側面」「地方創生の側面」から”豊かさとは何か?”について深掘りして、私たちの考え方をお伝えしていきたいと思います。
text : 吉松宏樹